それじゃあ価値はどこからくるの?
前回の続きです。
Gerald Weinbergは、「品質」という言葉を「誰かにとっての価値」と定義した。高品質のデリバリを達成するには、「価値を届ける相手は誰か」、そして「デリバリに求められる価値は何か」といった理解が必要だ。
(『インパクトマッピング インパクトのあるソフトウェアを作る』(ゴイコ・アジッチ、翔泳社、2013年) p.07 アクター)
もちろん、ストーリーを動くソフトウェアという形にしてユーザーに提供すれば、ユーザーはそれを使って何らかの便益を受けられます。すなわち、ユーザーは価値を得られます。こう考えれば、「価値がある」ストーリーには、文字通りユーザー価値があることになります。
しかし問題はそう単純ではありません。例として、ショッピングサイトを考えてみます。ストーリーは「商品カタログを見る」「注文する」「決済する」「発送する」などになるでしょう。すぐに典型的な疑問がわいてきます ―― 「注文する」ストーリーには単独で価値があるのか?すべてそろわないと価値がないのではないか?
ユーザーストーリーマッピングはひとつの答えになります。ユーザーが買い物をするという行為を完結できる一連のストーリーを選び、それを最小限の時間やコストで実現できる組み合わせにして、最初のリリースを定義する(これを私はMVP(Minimal Viable Product)とも呼んでいますが、人により解釈が異なるようです)。こう考えると、個々のストーリーの価値は問題ではなく、リリースというひとまとまりの動くソフトウェアに価値があることがわかります。
前回紹介した、ストーリー1つに独立して価値があるという考え方もあります。いまの時代にショッピングサイトを作るとしたら、他社にない特別な優位性が求めらるはずです。そうした優位性のアイデアが「注文する」ストーリーに込められているなら、単独で価値を持つと考えられます。リーンスタートアップのアプローチであれば、この優位性(の仮説)を検証するために、集中して実験することになります。注文の部分だけソフトウェアで実現して、ターゲットユーザーに試してもらうかもしれません。
プロダクトの強みとなる箇所だけを取り出し、検証する作業に当たります(これをMMF(Minimal Marketable Feature)と呼んでよいと思いますが、人により解釈は異なるようです)。最終的にプロダクトとしてユーザーに利用してもらうときは、一連のストーリーが必要になります。ギルドワークス株式会社の市谷さんは「学びを得ることと価値提供を混同しない」と言っています。
ユーザーストーリーマッピングに限らず、アジャイルなソフトウェア開発では、リリース計画やロードマップが用いられます。いずれも、顧客に動くソフトウェアを届け、価値を提供するための計画です。どういうタイミングで、なにを提供すれば、届ける価値を最大化できるのか。
リリースからはさらに、生のユーザーフィードバックを得られるようになります。こうしたフィードバックをどうやって得ていくかも、リリース計画の一部となります。フィードバックは様々な種類があり、ユーザー行動分析もそうですし、クチコミの評判もあれば、市場や競合の変化もそうです。売上やマーケットシェアの変化もフィードバックとなります。プロダクトの性質により、リリースが何スプリントに一度の場合も、1スプリント内に何度もリリースする場合もありますが、基本的には変わりません(間隔の長いリリースのほうが、計画が難しくなる傾向はあるようです)。
こうなると、次のリリースの内容は、その先のリリースまで見据えたものになってきます。そのため、リリース計画においてはその先のリリースも含めた、ロードマップの検討と更新が欠かせないものになります。ロードマップはプロダクトビジョンの実現、今後のプロダクトの向かう先を示すもので、チーム全体の方向をそろえる道具のひとつとなります。