Joshua Kerievskyとモダンアジャイル

2016年にJoshua Kerievskyが提唱したモダンアジャイルでは、モダンアジャイルへ向かうための4つの原則*1を柱としています。なお2017年には来日してアジャイルジャパン2017の基調講演で、日本のアジャイル界隈にモダンアジャイルを紹介しました。

  • 人々を最高に輝かせる
  • 安全を必須条件にする
  • 高速に実験&学習する
  • 継続的に価値を届ける

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この中の「安全を必須条件にする」には心理的安全性が含まれます。同時にモダンアジャイルでは、心理的以外の安全性についても重要性を説いています。Joshua Kerievskyは以前からAnzeneeringという考え方を提唱しています。この言葉は日本語の安全(Anzen)と英語のengineeringを組み合わせた、Joshuaの造語です。彼はIndustrial Logic (Joshuaの会社)のページで、以下のようにAnzeneeringを紹介しています。

  • Anzeneerは様々な要素から人びとを守る
  • 様々な要素とは、たとえば人間関係、作業環境、プロセス、プロダクトなど
  • 人びととは、利用する人、作る人、マネージャ、買う人、利害関係者など
  • 安全はすべてのリーンやアジャイルの共通項である

Joshua自身も、エイミー・エドモンドソンやGoogleの研究に触れて心理的安全性を紹介したりしているので、Anzeneeringやモダンアジャイル心理的安全性は直接関係していると思われます。

いっぽうでJoshuaは心理的以外の要素も大事だとしています。ソフトウェア利用者をソフトウェアの問題から守る、開発者を質の悪い危険なコードから守る、マネージャが進捗を把握できるよう守る、などです。「高速に実験&学習」するには、実験や学習の中で失敗したり問題が起きても、それが人びとの安全をおびやかさないような環境が前提となります。

思うに、心理的安全性が対人リスクを減らし学びと効果を生み出すという現象が、とりわけソフトウェアの領域では人間関係に限定されず幅広いリスクについて言えるのではないでしょうか。たとえば、間違ったことを言っても怒られない、指摘を受けて訂正すればいいという状況は、アジャイルなソフトウェア開発においては、間違った機能を作っても、ユーザーの指摘を受けてすぐ直せばいいという状況に似ているように思われます。モダンアジャイルが言及するのはソフトウェアに限りません。人間が中心となって価値を産み出すという幅広い領域において、アジャイルが有効だというメッセージです。そうした中で心理的安全性は、仕事の多くの側面で有効であり、大事にすべきなのではないでしょうか。

*1:よくモダンアジャイルの4つの原則や理念と紹介されていますが、原文ではModern agile methods are defined by four guiding principlesとなっており、「モダンアジャイルへ向けてガイドする原則」とするほうが正しそうです。些細な違いかもしれませんが、4つの原則がモダンアジャイルであると理解するのと、4つの原則はモダンアジャイルへ近づくヒントだと理解するのでは、行動と結果が変わってくるように思われます。